徴用工訴訟問題で、日本の安倍首相が、韓国の原告側が日本企業の資産差し押さえを裁判所に申し立てたことに対し、具体的措置の検討を関係省庁に指示したことについて、初心者にもわかりやすく解説します。

6日、NHK番組『日曜討論』で、第二次世界大戦中の徴用工をめぐる判決で、韓国の原告側が新日鉄住金や三菱重工業の資産の差し押さえを裁判所に申し立てたことについて、安倍総理大臣は極めて遺憾だと述べ、国際法に基づく具体的な対抗措置の検討を関係省庁に指示したことを明らかにしました。

安倍首相は番組の中で、

「先般の判決は国際法に照らしてありえない。

そもそも1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みであり、国際法に基づき、きぜんとした対応をとるため、具体的な措置の検討を関係省庁に指示した」

出典元:NHK NEWS WEB 「徴用」資産差し押さえ 安倍首相が対抗措置の検討指示

と述べました。

 

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徴用工訴訟|安倍首相が遺憾とする資産差し押さえとは

新年早々波紋を広げているのは、韓国の原告側が新日鉄住金と三菱重工業に対して相次いで資産差し押さえの申し立てを行った問題です。

出典元:NHK NEWS WEB 「徴用」新日鉄住金の資産差し押さえ 原告が申し立て

まず、新日鉄住金です。

第二次世界大戦中の徴用工をめぐっては去年10月、韓国の最高裁判所で新日鉄住金に賠償を命じる判決が確定したことを受け、原告側が新日鉄住金に対し賠償に関する協議に応じるよう求めていました。

その後この協議が実現しないため、原告側は2日声明を発表、新日鉄住金の誠意がなく反人道的な態度に強い遺憾の意を表すとして、裁判所に対し新日鉄住金の韓国に所有する資産の差し押さえを31日に申し立てたことを明らかにしました。

原告側によれば、差し押さえの対象は、新日鉄住金と韓国最大の鉄鋼メーカー、ポスコとの合弁会社の株式で、韓国メディアはおよそ110億ウォン(11億円相当)に上ると伝えています。

もうひとつは、三菱重工業です。

第二次世界大戦中の徴用工をめぐり、韓国人の元徴用工らが三菱重工業に損害賠償を求めた2つの裁判で、韓国の最高裁判所が賠償を命じ判決が確定したことを受けて、原告側は来月末までに協議に応じる回答が得られなければ、三菱重工業が韓国に所有する資産を差し押さえる手続きに入る考えを示しました。

第二次世界大戦中、三菱重工業の広島の工場に強制連行されて働かされた上に被爆したとして韓国人の元徴用工らが損害賠償を求めた裁判で、韓国の最高裁判所は去年11月、三菱重工業側の上告を棄却し賠償を命じる判決が確定しました。

また同日、韓国の最高裁判所は三菱重工業に対し、名古屋の工場で『女子勤労てい身隊』として過酷な労働を強いられたとする韓国人女性や遺族にも賠償を支払うよう命じました。

2つの判決を受けて両方の原告側の弁護士や支援団体が4日、名古屋市で会議を開き、原告が高齢であることなどを踏まえ、来月末までに協議に応じる回答が得られなければ、韓国に所有する三菱重工業の資産を差し押さえる手続きに入る考えを示しました。

原告の弁護士によれば、三菱重工業が韓国内で保有する特許や関連会社の債券などを差し押さえの対象として検討しているということです。

新日鉄住金と三菱重工業に対する資産差し押さえの申し立て問題、日本政府が韓国政府に適切な対応を求める中、申し立てを受けて韓国の裁判所は差し押さえを認めるかどうか審査を行い近く判断が出るとみられています。

日韓関係が一層悪化することは避けられない見通しです。

 
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徴用工訴訟|安倍首相が具体的対抗措置を指示した理由

第二次世界大戦中の徴用工をめぐる判決の問題については、安倍首相が具体的対抗措置を関係省庁に指示する前に、日本政府の見解として河野外相が韓国政府に適切な対応を要請していました。

河野外相は、韓国のカン・ギョンファ(康京和)外相と電話で会談し、第二次世界大戦中の徴用工をめぐる判決で原告側が裁判所に対し、日本企業の資産の差し押さえを申し立てたことについて、日本企業に不当な不利益が生じないよう韓国政府に適切な対応を求めました。

電話会談は韓国側の要請で4日午後、およそ30分間行われたものです。

この中で、カン・ギョンファ外相が第二次世界大戦中の徴用工をめぐる裁判に関連し、原告側が先月31日に裁判所に対し、新日鉄住金の韓国に所有する資産の差し押さえを申し立てたことなどを説明しました。

これに対し、河野外務大臣は

「この問題は日本として非常に深刻に捉えている。

日本企業に不当な不利益が生じれば、日本政府として対応策を取らざるを得なくなりそういうことがないようにしっかりと早期に対応してほしい」

出典元:NHK NEWS WEB 「徴用」資産差し押さえ 韓国に適切な対応を要求 河野外相

と述べ、韓国政府に適切な対応を求めました。

ところが、その直後、さらに三菱重工業への資産差し押さえの申し立てが報じられ、業を煮やした安倍首相が具体的な対抗措置の検討を発令したと思われます。

それをテレビ番組で表明したところは、韓国に対して強い懸念を抱く安倍首相らしいやり方かもしれませんね。

 

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そもそも、韓国の徴用工訴訟問題とはどんな問題なのか

徴用工訴訟問題とは、一体どんな問題なのでしょうか?

日中戦争で深刻化した労働力不足を補うため、日本政府は国家総動員法と国民徴用令によって民間人を軍需工場や炭鉱などに動員しました。

これを徴用工と言います。

戦争が拡大し、対象は日本の植民地だった朝鮮半島にも広がりました。

徴用された朝鮮半島出身者の数については公式な記録が残されておらず、詳しくはわかっていませんが、研究者の調査では70万人から80万人くらいと推定されています。

この問題は、第二次世界大戦後の国交正常化交渉の主要議題のひとつになりました。

14年に及んだ交渉の末、1965年に日本と韓国は国交を回復します。

この時、結ばれた請求権協定の第2条1項には

「日韓両国と国民の財産、権利及び利益、並びに請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決された」

と明記されています。

韓国政府も日本政府が拠出した経済協力資金の運用に関する法律を制定し、徴用で死亡した人に対し、ひとりあたり30万ウォンを支給しています。

これが日本政府が「この問題は完全かつ最終的に解決している」とする根拠です。

出典元:NHK NEWS WEB 「日韓の新たな火種か 元徴用工問題」(時論公論)

その後、請求権協定で何が解決し何が解決していないかをめぐって、元徴用工やその遺族が「まだ解決していない」として1990年代から日本政府や企業に損害賠償などを求める裁判を次々と起こすなど、長い間、論争が続きました。

一連の裁判は2007年4月、最高裁判所で「完全かつ最終的に解決済み」となり、徴用工に関して、日本での訴訟の道は閉ざされました。

韓国では、ノ・ムヒョン政権が歴史の清算の問題に積極的に取り組み、何が解決され何が解決されていないのかの検証を行いました。

その結果、国交正常化交渉時には存在が知られていなかった慰安婦や韓国人被爆者などは「請求権協定では解決されていない」と結論づけましたが、元徴用工については韓国国内で立法措置が取られていることなどを理由に「解決済み」とされ、韓国政府も裁判所もこの立場を踏襲してきました。

出典元:NHK NEWS WEB 「日韓の新たな火種か 元徴用工問題」(時論公論)

第二次世界大戦の徴用工をめぐる問題が再び浮上したのは、2012年に韓国の最高裁判所で示された判決がきっかけでした。

韓国の最高裁判所は、請求権協定で解決済みであり被害者個人が損害賠償を求めることはできないとしていた判決を破棄し、裁判をやり直すよう高等裁判所に差し戻しました。

「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民地支配に直結した不法行為による損害賠償請求権は、請求権協定によっても消滅していない」

という判決を初めて下したのです。

この判決をきっかけに韓国国内では、日本企業に損害賠償を命じる判決が次々と出されるようになりました。

解決済みとされていた第二次世界大戦の徴用工をめぐる問題が、この韓国の最高裁判所の判決によって、一転、未解決とされたわけです。

この問題について安倍首相も、2015年8月、戦後70年にあたって発表した談話の中で

「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を我が国が与えた事実をかみしめる時、ただただ断腸の念を禁じえません」

出典元:NHK NEWS WEB 「日韓の新たな火種か 元徴用工問題」(時論公論)

と述べています。

誰もが苦難を強いられていた第二次世界大戦時下という特殊な状況だったとはいえ、日本としても、こうした歴史の事実は謙虚に受け止めねばならないでしょう。

今後の日韓関係について考えていきます。

上述の通り、昨年、韓国の最高裁判所から高等裁判所に差し戻され再び最高裁判所に上告された訴訟では、原告側の主張を認める判決が言い渡されました。

原告側の主張が認められ日本企業に損害賠償の支払いを命じる判決が確定することにより、1965年の請求権協定で決着したはずの問題がことごとく覆され、日韓関係の根幹を揺るがす政治問題になることは確実です。

このままいけば、際限なく次々と裁判が起こされ、日本企業の韓国での活動にも深刻な影響が出るでしょう。

双方の外交努力によって解決し封印されたはずの問題が再び蒸し返される、両国政府で解決済みのはずが韓国の民事裁判によって再燃する日韓関係にとってマイナスになるだけでプラスにはなることは、まずありません。

日本と韓国は、最近の海上自衛隊の哨戒機に対する火器レーダーの照射問題、徴用工問題と同様に長引く慰安婦問題など常に対立しているイメージが否めません。

日本と韓国両政府には、感情的になりがちな世論に流されず、お互いの努力によって積み重ねてきた両国関係の歴史を踏まえ、理性的な判断をお願いしたいものです。

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