『ザル法案』と揶揄されている入管法改正案が、野党の戦術ミスが問われる中、あっけなく衆院通過、審議の舞台は参院へと送られました。
自民党・公明党・日本維新の会が推し進める入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正案は、27日夜、衆議院本会議で採決を行い、賛成多数で可決、参議院に送られました。
入管法改正案は、来年4月から外国人材の受け入れを拡大するため、新たな在留資格を設けるというものです。
ザル法案の入管法改正案、野党が戦術ミス?
野党が『ザル法案』と揶揄していた入管法改正案ですが、野党の戦術ミスがあったのではないか、との意見があります。
改正案には、外国人受け入れ人数の上限など多くの部分が書き込まれず、具体的な内容は、法案成立後に定める「分野別運用方針」や省令によるものしてあり、野党は中身のない「ザル法案」と反発していました。
衆院法務委員会での採決では、怒鳴り声やヤジの中で、野党議員が委員長席に詰め寄るなどしたものの、結局はあっけなく通過してしまいました。
さて、野党が攻め手を欠いたのはなぜでしょうか。
去る11月16日、立憲民主党が自民党の葉梨康弘・法務委員長の解任決議案を提出しましたが、法案が実質審議入りする前日の20日に本会議で自民、公明両党などの反対多数で否決されてしまいました。
衆院の常任委員会は、政府答弁を踏まえた質問を準備するための慣例ですが、入管法改正案は葉梨氏の職権で、21日、22日、26日、27日の4日間にわたって審議が行われました。
これは、29日から安倍晋三首相が外遊を予定しているための、異例の過密スケジュールでした。
解任決議案は1回しか出せないため、葉梨氏の解任決議案否決により、野党は葉梨氏が決めたスケジュールに対してなすすべがなくなってしまいました。
野党は、解任決議案を出すタイミングに失敗した、と言っていいでしょう。
もうひとつは、入管法改正案に対抗する野党の対案をめぐる問題です。
国民民主党は11月21日の総務会で対案をまとめていましたが、それは半年間法案の施行を延期し、
(1)地方への人材確保への配慮
(2)産業別・地域別の受け入れ上限の設置
などが骨子で、参院法務委員会で実質審議入りする11月29日にも提出したい構えです。
本来であれば、これを衆院で提出すべきであったはずですが、出す場面を見つけることができず、戦術ミスが尾を引いたと思われます。
さらに、野党の他党に呼びかけをして共同提出することについても交渉が必要で、野党同士の足並みが揃うかどうかも不透明な状態のようです。
入管法改正案は衆院通過、審議の舞台は参院へ
外国人労働者の受け入れを拡大するための入管法改正案は、衆院を通過し、審議の舞台が参院に移りました。
自民党・公明党の与党と日本維新の会は、28日の参議院本会議で、安倍首相も出席して、法案の審議に入りたい考えなのに対し、野党側は「拙速で応じられない」と主張している中で、協議が行われる見通しです。
法案の内容は、来年4月からの外国人材の受け入れ拡大に向け、「特定技能」の「1号」と「2号」という新たな在留資格を設けるものです。
まず「特定技能1号」は、特定の分野で、相当程度の技能を持つと認められた外国人に与えられます。
在留期間は、最長で通算5年とし、家族の同伴は認めないとしています。
また、「特定技能2号」は、「1号」を上回る「熟練した技能」を持つと認められた外国人に与えられます。
在留期間に上限を設けず、長期の滞在や家族の同伴も可能になるとしています。
一方、法案は新たな制度の運用を点検し、必要な措置をとるための見直しの時期を「3年後」から「2年後」に短縮することなど、一部修正が行われました。
この修正が認められたことにより、日本維新の会が賛成派に加わりました。
受け入れの対象は、農業や介護業など14業種が検討されていますが、制度の詳細は法案には明記されておらず、成立後に、省令で定めるとしています。
外国人受け入れの上限数や受け入れ環境整備に向けた具体的な対応策が、法案では示されていないとして、野党は反対しています。
詳しいことは明記せず、法案可決後に決めようとする与党側に対して、野党が『ザル法案』と揶揄して反発している、というわけです。
世論調査では、外国人受け入れ拡大に賛否両論
世論調査の結果では、入管法改正案の国会での審議が拙速である、との傾向が見られました。
例えば、毎日新聞の世論調査(11月17・18日実施)では、入管法改正案について、
- 今国会で成立させた方がよい 9%
- 今国会での成立にこだわらず議論を続けたほうがよい 66%
ただし、外国人労働者の受け入れを拡大する政府の方針に対しては、
- 賛成 44%
- 反対 42%
と拮抗しています。
国民に賛否両論あるように、野党も、外国人労働者受け入れそのものに反対しているわけでなく、審議の進め方や法案の内容に関する追及に重点を置いているのですが、今のところ、どちらも上手くいっていないようです。
移民の受け入れに関して、国際社会では拒否に向かう国が多い傾向にあり、その理由の多くは、治安の悪化に対する懸念と言われています。
たしかに日本国内でも、外国人による犯罪がクローズアップされることが多くなってきました。
今回は外国人労働者の受け入れなので、移民の受け入れとは異なりますが、同じ心配を考える人が多いでしょう。
外国人の祖国と日本の環境の違い、生活習慣も異なるでしょうから、トラブルが増えるのは避けられないと思います。
また、長期に渡って滞在を認める向きもあり、慎重な協議が必要、外国人の受け入れ数も重要ですが、それぞれの資質、プロフィールについても安全・安心な人を受け入れてほしいのが、国民の本音ではないでしょうか。