昨年の6月、神奈川県大井町の東名高速道路で、あおり運転を受けて停車させられた夫婦が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた建設作業員、I被告(26)の裁判員裁判が3日から、横浜地裁(深沢茂之裁判長)で始まります。
あおり運転事故を犯したI被告の罪について、無罪の可能性もあると報道されていますが、世の中はそれを許さない風潮にあります。
事故は、昨年6月5日に発生しました。
起訴状によれば、パーキングエリアで萩山嘉久さん=当時(45)=から駐車位置を注意されたI被告が激高。
約1.4キロにわたり萩山さんと妻の友香さん=同(39)=らが乗る車の進路をふさぐなどの危険なあおり運転を繰り返した末、高速の追い越し車線上で、後続の夫婦の車を停車させました。
I被告が萩山さんを車内から引きずり出して夫婦と口論になり、そこに後ろから大型トラックが夫婦の車に突っ込み、2人が死亡しました。
参考記事:裁判員から見る東名あおり運転事故は?問われる懲役18年の妥当性
東名あおり運転事故、被告の無罪を世の中は許さない
東名あおり運転事故には、多くの人から関心が集まっています。
それは、車を運転する人には、とても他人事と言えない事故だったからです。
ワゴン車の前に自分の車を停車させ、事故を誘発したなどとして逮捕されたI被告は、足でハンドルを操作する様子を知人らが目撃するなど、悪質運転の常習者でした。
神奈川県警の調べに対して、I被告は「(夫婦の夫に)注意され、頭に来たのでやった」と供述しています。
捜査関係者は「長距離の運転もいとわない、いわゆるドライブ好き」とI被告の性格を話していますが、より罰則の重い危険運転罪の適用を求める声もあがるなど、余波は広がっています。
当初、I被告は「自分の方が、あおられたり、パッシングされたりしたので停車した」などと話していました。
県警交通捜査課などは、当時、現場周辺を走っていた260台以上の車両を防犯カメラなどで割り出し、運転手らの証言やドライブレコーダーの記録を収集、I被告の説明は虚偽と断定し、昨年の10月10日、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで逮捕しました。
事故発生から約4カ月後のことでした。
東名あおり運転事故に、立ちふさがる法律の壁とは?
逮捕されたI被告(26才)の逮捕容疑は「過失運転致死傷罪」です。
同罪は「7年以下の懲役または禁錮もしくは100万円以下の罰金」と定められていますが、これは通常の人身事故と変わらない刑罰で、罰金刑で済む可能性すらあります。
交通事故には、最高20年の有期刑を科す『危険運転致死傷罪』があります。
ただし、これを適用するには、運転手の行為が酩酊運転、高速度運転、未熟運転、妨害運転等に該当しなければならなりません。
一見するとI被告の行動は「妨害運転」に該当しそうですが、専門家の見解は異なります。
危険運転致死傷罪が成立するのは、先の危険運転で“人を死傷させた”ケースです。
今回の事故でいえば、I被告が妨害運転をしたと認定されても、彼自身が死傷させたと判断できるかどうか、法的に説明できるかどうかが問題であり、難しいところです。
このため、警察は刑の軽い『過失運転致死傷罪』で逮捕したと言われています。
過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪を分ける「法律の壁」は、これまで何度も議論となってきました。
2000年4月、神奈川県座間市で検問から猛スピードで逃走した車が歩道に突っ込み、通行中の大学生2人を即死させる「小池大橋飲酒運転事故」が発生しました。
「面会なら30万から」反省の色のない被告の手紙
横浜拘置支所に勾留中のI被告(26)から10月、産経新聞記者に便箋1枚に書かれた5行程度の手紙が届きました。
「俺と面会したいなら30万からやないと受つけとらんけん」と金銭を要求しているような文章から始まり、取材については「人のことをネタにしている」との趣旨が書いてあったとのこと。
複数の関係者によると、I被告は弁護方針に関しては弁護人に一任しています。
I被告は「現場近くのパーキングエリアで駐車場所を注意され頭にきて追いかけた」と供述しました。
これまでの調べで、I被告が今回の事故の約1カ月前にも、山口県下関市の一般道で同様の妨害走行を3件起こしていたことが分かっています。
そのうち5月9日の事案では、追い越そうとした車の進路を妨害して停車させようと幅寄せし、接触事故を起こしていますが、山口県警はこの事故で、自動車運転処罰法違反(過失致傷)容疑で書類送検していました。
すなわち、I被告は、あおり運転を含む危険運転の常習犯であったということのようです。
今もなお反省の色がないI被告に、まさか無罪の判決はないでしょうし、それ相応の刑が望ましいところですが、裁判員裁判でどのような裁きを受けるのか、注目が集まります。