過去、主文後回しは、重大事件の厳しい判決を意味すると言われています。

2015年8月に起きた寝屋川中1男女殺害事件の裁判員裁判の判決が、19日、大阪地方裁判所で行われ、殺人罪に問われていた山田浩二被告(48)に殺意があったと認め、殺人罪が成立するとし、検察側の求刑通り死刑を言い渡しました。

出典元:FNN 寝屋川事件で死刑判決(関西テレビ)

ほとんどの刑事事件の判決で、裁判官は、条文に記載されている順序に従って、「主文」「理由」の順に朗読しています。

ところが、世間の注目を集める重大事件ではときどき、主文が後回しにされるケースがあります。

今回の事件はまさに主文が後回しにされ、極刑とされる「死刑」が言い渡されました。

裁判の最中に、判決が主文後回しにされたことがニュースとなりネットやテレビを賑わせましたが、本来の目的はほかにあるのでしょうか。

 

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主文後回しは、重大事件の厳しい判決を意味する

刑事裁判の判決には、「主文」と「理由」があります。

「主文」では、被告人に科されるべき刑の内容が具体的に明らかにされ、「理由」においては、「主文」を導き出した具体的根拠が説明される、ということです。

刑事訴訟法や刑事訴訟規則では、主文と理由の朗読の順序について何も規定されていないそうです。

刑事訴訟規則35条2項をみると、「判決の宣告をするには、主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない」と書かれているものの、その「順序」については特に定めがありません。

裁判官は、条文に記載されている順序に従って、「主文」「理由」の順に朗読するのが一般的です。

ところが例外的に、「主文」が後回しにされ、「理由」を先に読み上げることがあると言います。

それは、重大事件における「死刑」のような厳しい判決を言い渡すような場合です。

判決における「主文後回し」の目的は、判決による被告人の動揺をさけるためであり、主文を聞いてうろたえるなど動揺する前に、被告人に判決に至った理由やその内容を理解させることにあります。

検察側の起訴に対して裁判がどのような判断を下したのか、そのことを被告人が充分に理解できるように、先にその理由を伝える、そして主文を後から伝える、それは裁判官の配慮だそうです。

 

寝屋川中1男女殺害事件の裁判員裁判、争点とは

寝屋川中1男女殺害事件の裁判では自供や目撃証言などの直接証拠がなく、星野凌斗(りょうと)さん(当時12歳)の死因や、山田浩二被告(48)の平田奈津美さん(同13歳)への殺意、被告の刑事責任能力が争点となりました。

出典元:FNN 寝屋川事件で死刑判決(関西テレビ)

判決は完全責任能力を認めるなど、弁護側の主張を全面的に退けました。

星野さんの死因について

弁護側は熱中症などの体調不良で死亡したと主張しました。

しかし浅香竜太裁判長は、窒息死の特徴である歯がピンクになる変色現象が見られたことなどから、死因を首の圧迫による窒息死と判断しました。

平田さんへの殺意について

  • 窒息死するには首を数分間絞め付ける必要があったこと
  • 顔などに粘着テープが異様なほど巻かれていたこと
  • 約50カ所の切り傷が残っていたこと

などの理由により、明らかな殺意があったと判断しました。

山田容疑者の責任能力について

合理的で冷静な行動を取っていた

被告は事件前後にスマートフォンで「DNA鑑定」「死体」などの言葉を検索していた、と指摘しました。

発達障害の影響は限定的

弁護側は発達障害の影響で心神耗弱状態だったと主張していましたが、これを退けました。

判決では、被告の完全責任能力を認めました。

 

今回、自供や目撃証言など直接証拠がない中、裁判員のみなさんは苦労されたのではないでしょうか。

裁判を通し、被告の説明を前提として、責任能力や被害者の死因が争点となりましたが、加害者心理を推し量ることが重要だったのかもしれませんね。

 

供述は作り話、生命軽視著しい、被告の控訴は?

犯人だとする直接証拠のない中、公判で山田被告は、2人のいずれも「殺すつもりはなかった」と起訴内容を否認していました。

一方、検察側は2人の生前の健康状態や遺体の状況、死亡直前に行動をともにしていたなどの状況証拠から、山田被告が犯人だと主張しました。

その上で、検察側は犯行当時の刑事責任能力に問題はなく、前科などから更生可能性はないなどと訴え、死刑を求めていました。

出典元:FNN 寝屋川事件で死刑判決(関西テレビ)

判決では、大阪地方裁判所の浅香裁判長が、冒頭で結論にあたる主文を述べず理由から先に読み上げる、主文後回しを行いました。

理由の中で、山田被告の主張について、遺体を鑑定した医師の証言などを根拠に重要な部分が虚偽で信用できないと判断し、2人に対していずれも殺意があったとして、殺人罪と認定しました。

また、山田被告が未成年7人に対する逮捕監禁罪などで服役した約10か月後にこの事件を起こしていることから、「犯罪傾向は深化している」と言及しました。

そして、「心身ともに未熟で、ほかに例を見ない極めて重い犯行だ。2人の遺族が極刑を求める中、嘘の供述を繰り返す被告の更生は難しく、死刑を回避する事情はみあたらない」と結論づけました。

山田被告の弁護側は、「明らかな事実誤認がある」として、控訴する方針を明らかにしました。

山田被告の弁護をしている鈴木一郎弁護士は、報道陣の取材に応じ、

「本人が決めることだが、控訴することになると思う。

日本の裁判所は専門家が証人となった時の証言について、『疑わしきは被告人の利益に』という考えの適用が甘い」

と述べ、判決を不服として、控訴する見通しを示しました。

出典元:NHK NEWS WEB 大阪 寝屋川 中1男女殺害 被告の男に死刑判決

弁護側は、山田被告について発達障害であるとか自閉症の傾向があるなど、刑の減軽を求めていましたが、実際にその障害に悩まされている人から見れば、いい気持ちはしないかもしれません。

障害のせいで殺人を犯すことなど、起こる確率が極めて低いのではないでしょうか。

また、心神耗弱状態にしても、弱っている状態で人を殺めることは、ちょっと考えにくいお話です。

今回の裁判以前に、山田被告自身が、地裁の判決について「通過点にすぎない」と述べ、判決の結果にかかわらず、控訴する考えを明らかにしていた、と報道されています。

「通過点に過ぎない」、この発言を聞くととても精神障害がある人とは思えませんし、言葉に悪意すら感じてしまいます。

偏見を持ってはいけないと考えても、救いようのない人というイメージは否めません。

裁判が次のステージに進もうがしまいが、若い2人の未来が絶たれた事実は変わりませんので、できるだけ遺族が苦しまないような方向へ向かってほしい、それだけを願います。