「片側空け」習慣の見直し論について、全国の鉄道事業者などが呼びかけを本格化させています。
これは施設などでのマナーアップ推進のひとつ、歩く人のためにエスカレーターの片側を空ける習慣を見直してもらおう、原則、エスカレーター歩行禁止とするものです。
急いでいる人のために片側を空ける、エスカレーターの「片側空け」は全国各地でよく見かける光景ですが、実は「歩行禁止」が最新のルールです。
それは、隣をすり抜ける際、荷物や体などが接触して思わぬ転倒事故を引き起こす恐れがあるからです。
しかし、いったん世の中に根付いた習慣を改めるのはなかなか簡単ではありません。
「片側空け」習慣の見直し論はマナーアップを推進
エスカレーターで片側を空けると、もう片側を歩く人との接触事故が後を絶たないほか、半身まひなどで手が動く側でしか手すりがつかめない利用者は大変不自由になってしまいます。
しかし、片側空けの習慣は定着していて、利用者側に呼びかけが浸透するかどうかは定かではありません。
日本エレベーター協会(東京)によれば、エスカレーターでの転倒事故は359件(03~04年)から1023件(13~14年)と増え続けています。
一般的なエスカレーターの幅は約1メートルと狭い設計になっていて、同協会は
「歩いて追い越しを想定した設計にはなっていない」
と言います。
片側空けの習慣に困っている人もいます。
左半身にまひがあり右側の手すりしかつかめない、福岡市東区の女性(56)はエスカレーターで右側を空ける習慣の福岡では、
「右側に立つと、急いでいる人に邪魔と思われそう」
と不便な思いをしています。
右立ち(大阪・梅田)|左立ち(東京・渋谷)
ちなみに、福岡や東京などのエスカレーターでは、急ぐ人のために右側を空けますが、大阪では逆に左側を空ける習慣、地方によって違います。
全国の鉄道事業者や商業施設などは今夏、手すりにつかまり2列での利用を呼びかけるキャンペーンを実施しました。
また、東京都理学療法士協会も東京パラリンピックを控え、16年にエスカレーターマナーアップ推進委員会を設立し、立ち止まっての利用を推進しています。
エスカレーターは歩行禁止というのが最新のルール
「本来、エスカレーターは立ち止まって乗ることを前提に設計されています」
と日本エレベーター協会の関係者は話します。
エスカレーターの標準的な勾配は30度で公共の階段よりも急勾配になっています。
ステップの高さや奥行きも大きいので、歩くとつまずきやすい間隔です。
ステップの幅は1.1メートル以下、1.4メートル以上とされる公共の階段よりも狭く、追い越しは想定していません。
1つのステップに乗れるのを2人までとし、利用者が必ず手すりを掴むことのできる構造になっているのです。
ところが、大都市の主要駅などで「歩行禁止」は守られておらず、実際には「片側空け」がほとんどです。
「ラッシュ時は急ぎたいから」「後ろから片側を空けろと注意されるから」などと理由は様々ですが、転倒事故を引き起こす懸念は残ったままです。
マツコ「効率を考えても、みんな2列で乗ったほうがいい」
タレントのマツコ・デラックスさんは、24日放送の「5時に夢中!」(TOKYO MX)で、
「二列で乗るエスカレーターの片側を、歩く人のために開けるのはおかしい」
という新聞コラムの主張に賛同しました。
マツコさんは、
「どうやら欧米などでも空けるらしくて、世界基準で見て日本がおかしいってわけでもないみたいだから、難しいところなんだけど」
と前置きし、
「いわゆる”エスカレーター待ち渋滞”がホームに起きるのが危ないんだって。
ラッシュのときは、それで更にどんどんエスカレーター待ちの列ができて、ホームに人が溢れるみたいになっちゃう」
と、エスカレーター片側空けの危険性を説明しました。
「同じ100人が上に上がると考えたときには、全員2列で行ったほうが3分の2ぐらいの時間で済むって計算があるんだって。
だから効率ってこと考えても、みんな2列で乗った方がいいよね」
と、歩行禁止の方が時間的に効率が良いという話もしています。
実際に、2列立ちで利用した方が、全体の移動時間は速くなるという分析結果があるそうです。
構造計画研究所(東京)が行った、全長30メートルのエスカレーターで350人が通り抜けるまでの時間を比較した記録があります。
2列立ちは前後の間隔を1段空け、片側空けの場合は右側の歩行者は2段空けて歩き、全体の3割が右側を歩くと想定しました。
結果は、350人全員が通り抜けた時間が2列立ちは6分49秒、片側空けは7分35秒で2列立ちのほうが46秒速かったそうです。
全体の6~7割が歩くと設定すれば片側空けの方が速くなりますが、最短でもその差は15秒だったとのこと。
エスカレーターの長さや歩行速度など状況にもよりますが、同研究所は、片側空けは立って乗る側の列が長くなって混雑を引き起こす可能性もあり、安全面などを考えれば2列立ちの方がメリットが大きいとしています。
エスカレーターの「歩行禁止」については、安全第一なので歩行禁止を徹底すべきだという賛成論に対して、依然として「片側空け」を支持する人もいて、習慣というものを一足飛びに解決することは難しそうです。
人間には無意識に周囲の人と同じ行動を取る習性があり、やがて習慣化し、時間をかけて身についたその習慣を変えるには、大きなエネルギーとそれ相応の時間が必要です。
啓発活動だけでなく、施設の混雑緩和のためのインフラ整備なども含め、社会全体が様々な工夫をして取り組まなければ、簡単に解決する話ではありません。
しかし、普通に考えれば、マナーアップもバリアフリー化のひとつです。
バリアフリーとは、
高齢者や障害者が社会生活を送るうえで、障壁となるものを取り除くこと。
当初は、道路や建物の段差や仕切りをなくすことをいったが、現在では、社会制度、人々の意識、情報の提供などに生じるさまざまな障壁をふくめて、それらを取り除くことをいう。
出典元:Weblio辞書
そもそもエスカレーターに乗れば、人は労力を使わずに上ったり下りたりできるのですから、基本じっとしておけばよいのです。
エスカレーターの空いたところを上ったり下りたりしたい人は、歩行禁止にする以前に利用禁止、最初から階段を使ってください、ということですね。
マツコさん、ときどき常識的な発言をするところが良いですね、タイプではありませんが(笑)