28日、千賀滉大投手(25)が初めて代理人を伴って契約交渉に臨み、球団に改めてポスティングシステムを利用したMLB・米メジャーリーグ挑戦を直訴しました。
福岡ソフトバンクホークスの千賀投手は、昨年の交渉時も同様の意思を伝えており、来年1月に球団上層部と会談の場を設けることになりました。
今月ダルビッシュ(カブス)と合同自主トレを行った右腕は、ソフトバンク所属選手として、自らが道を開くためにもエースと認められる存在になる決意を示しました。
契約は、3500万円増の年俸1億6000万円プラス出来高払いで更改しました。
育成出身初の開幕投手を務めた今季は3年連続2桁勝利となる13勝をマーク。
ただ、右腕故障などで規定投球回に届かず、防御率は3.51と本人にとっては納得できる数字ではありませんでした。
千賀滉大のポスティングシステムでのメジャー挑戦は実現する?
千賀投手は交渉の席で、昨年に続き、ポスティング制度によるMLB・米メジャーリーグ挑戦の希望を伝えました。
ポスティングシステムでのメジャー移籍は、最近では大谷翔平投手が有名ですが、新しい現行制度での前田健太投手、田中将大投手、旧制度でのイチロー選手、石井一久投手、松坂大輔投手、井川慶投手、ダルビッシュ有投手、青木宣親選手などの事例があります。
ところでポスティングシステムとはどんな制度でしょうか。
2013年以降、現行制度では、メジャー挑戦をしたい選手に対して、上限2,000万ドルという譲渡金を設定して、各メジャー球団と条件交渉することを可能とするシステムです。
2,000万ドルを支払う意志のあるメジャー球団が複数ある場合には、選手はその全ての球団と交渉をすることができます。
交渉が成立したメジャー球団は、その選手を獲得する見返りとして、その選手の所属する日本球団に2,000万ドルを支払います。
ポスティングシステムを活用することにより、まだ海外FA権を取得していない若い選手のメジャー挑戦が可能になりました。
しかし、自由にポスティングでの移籍を認めてしまうと優秀な選手がメジャーに流出する恐れがあるので、ポスティングシステムは選手が所属する日本球団が認めた場合のみ利用することができる、ということとしています。
ソフトバンクはポスティングでのメジャー挑戦を認めていない
千賀投手が所属する福岡ソフトバンクホークスでは、ポスティングでのメジャー挑戦を認めていません。
ソフトバンクの三笠球団統括本部長は「選手には、国内FA権、海外FA権を取ってもずっとホークスでやってもらいたいというのが大前提」と球団方針を語ります。
「千賀君の気持ちは分かるけども、球団として何をメリットとして考え、ポスティングという権利を行使するのか。整理をしなきゃいけないことはたくさんある」と見解を話しました。
選手が球団に見返りのない海外FA権で移籍する前に、球団に譲渡金が入るポスティング制度で移籍することが、選手と球団の妥協点になるケースもあり、日本ハムファイターズはダルビッシュ有投手や大谷翔平投手を送り出した前例があります。
ただ、潤沢な資金力のあるソフトバンクにはポスティングによる移籍は魅力と映っておらず、仮にFAで移籍される結果になっても、それまで1年でも長くプレーしてもらうのが企業理念です。
実際に、城島健司、和田毅、川崎宗則はいずれも、海外FA権を取得して海を渡りました。
同本部長は「特定の一人だけの話じゃない。今までずっとポスティングという選択を取らなかった球団。歴史と言ったらいいか。今回、もしそう(制度を利用)するなら、どういうことでそうするのか、議論をして、整理をしなきゃいけないよね、という話をした」と説明します。
さらに、「12球団のいろんな方針がある中で『海外に早く挑戦させるべきだ』と野球界としてコンセンサスが取れるなら、選手会と話し合って、海外FA権の(取得に必要な)期間を短くするとかいうような議論があってしかるべきだし、そうなればなったで球団の経営を圧迫する要因にもなる」と続けます。
もしそうなれば、引き留めのコストにも、早期の人材流出にもつながる恐れがあると言います。
「それでみんな海外に行ってしまうようになったら、今の12球団が成り立つのかどうか…と、いうようなことを、総合的に考えなきゃいけない事案だと思う」と。
いわゆる“そもそも論”に行き着くほど、ソフトバンク球団としての結論ははっきりしているということです。
千賀投手の要望については、年明けに別途、会談の場が持たれることになりました。
ポスティングでの移籍と海外FA権を行使しての移籍の違いとは?
ポスティングシステムでの移籍について、選手と日本の球団のメリットは以下が考えられます。
- 選手:海外FA権を待たずにメジャー挑戦ができる
- 日本の球団:譲渡金が貰える
次に海外FA権についてです。
海外FA権を行使して選手がメジャーに移籍した場合、ポスティングシステムのように譲渡金を球団は貰うことができません。
その選手を海外FA権まで働かせた代わりにその球団はお金は貰えませんよという事です。
なので海外FA権取得までの過程を除いて「海外FA権」のみで考えると球団にとっては何のメリットもありません。
なのでメジャー移籍を強く望んでいる選手が来年再来年海外FA権を取得するのであれば球団はポスティングを認めて譲渡金を貰う方を選択する、という考え方もあります。
ソフトバンクのようにポスティングを認めていない球団もあるので、単純に比較はできませんが、もし「ポスティングシステム」「海外FA権」どっちがいいのか、と聞かれたら、それは選手次第ということになります。
大谷翔平投手のように事前にメジャーの球団が複数手を挙げる事が分かっていて、日本球団がポスティングも認めてくれているのであれば、ポスティングを使った方が若い年齢でメジャーに挑戦することができますし、球団にも相応の譲渡金が入ります。
一方で、例えばメジャーを望んでいても海外球団が手を挙げるのか分からないような選手がポスティングシステムを使うとすると、譲渡金を支払ってまで欲しいという球団は少数もしくは出てこないない場合も考えられ、その選手にとってはリスキーです。
選手によっては、譲渡金を支払わなくても良い海外FA権を使ったほうが、より自由にメジャーに挑戦できる場合も考えられるわけです。
日本のプロ野球選手にとって、MLB・米メジャーリーグは次の目標として目指したいステージであることは間違いありません。
しかし、日本球団からすれば、タレントの海外流出であり、必ずしも歓迎されるものではありません。
ポスティングシステムは選手と球団の合意のもとに、メジャー挑戦を可能にしますし、海外FA権を取得した選手にはその権利があります。
特定の選手を応援する日本のファンも、その選手に自分のお気に入りの球団で活躍してほしいのか、その選手のメジャー挑戦を応援したいのか意見が分かれるところです。
千賀投手は、育成出身からチームのエースに這い上がった逸材、球団にポスティングの米移籍を直訴する姿を見ると、できるだけ早い段階で、米メジャーリーグに挑戦させてあげたい気もします。
ただし、その前に千賀投手にはもう一度、パ・リーグ優勝と日本一、初の沢村賞投手になってから、ということをお願いしたいと思います。