25日、東京・渋谷区の児童養護施設で施設長の男性が刺されて死亡した事件、刺したのはこの施設の元入居者でした。

死亡したのは児童養護施設「若草寮」の施設長、大森信也さん(46)、殺人未遂容疑で逮捕されたのは、田原仁(ひとし)容疑者(22)です。

出典元:TBS NEWS 児童養護施設長死亡、元入所者の男「ネットカフェを転々と」

田原容疑者は、退所後に住んでいたアパートを去年9月に退去させられ、ネットカフェを転々としていたことが分かりました。

刃物の包丁は事件前に購入しており、取り調べに対して、「施設に対して恨みがあった」などと供述しているということで、警視庁代々木署は計画的な犯行とみて詳しい経緯を調べています。

 

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児童養護施設とは?子どもを自立させる施設がさらされる誤った偏見

児童養護施設は、親の死亡や病気、虐待、経済的事情などで家庭で暮らせない子どもが生活する施設です。

原則として18歳未満が対象となっていますが、2017年からは必要に応じて22歳まで住居や生活費を提供しています。

しかし、児童養護施設がそもそもどんな施設なのか知らない人も多く、少年院のようなイメージをもつ人や、児童相談所と混同している人も少なからずいて、関係者は誤った偏見を持たれることがあるようです。

ある児童養護施設の関係者は、

「児童養護施設を小規模化し、一軒家を借りて家庭の雰囲気に近いグループホームをつくる方向で進めていますが、物件を探すとき何十件も断られたことがありました」

と苦い経験を語っています。

出典元:Buzz Feed News 児童養護施設と自立援助ホーム

虐待を受けた子どもの中には、心に傷を負い、仕事を長く続けることができなかったりコミュニケーションが難しかったりする子もいます。

家庭の経済状況が悪く、家族からの援助を受けることが難しいケースがほとんどですので、施設を退所してすぐに経済的、精神的に自立することが難しく、その後、自立援助ホームに入居して働いたり、本人が育った施設に定期的に面談に行ったりするなど、継続的な支援が必要になります。

 

施設長を刺した男は、ネットカフェ難民の元入居者、計画的な犯行か

児童養護施設は虐待や貧困など、様々な事情で家族と暮らせなくなった子どもたちを養育する場所です。

施設で暮らせるのは原則18歳までとされており、その後は退所を余儀なくされるケースがほとんどです。

田原容疑者もこの施設で3年ほど過ごした後、18歳で自立して就職、しかし、仕事は長続きせず、職場を転々としていました。

やがてアパートの家賃が払えなくなり、滞納するなど大家とトラブルを抱え、去年9月、部屋を退去させられてしまいました。

住み家を失った田原容疑者は事件発生までの間、ネットカフェなどで寝泊まりを続けていたと言います。

26日、捜査関係者への取材によると、田原容疑者が施設への侵入から5分間のうちに犯行に及んでいたことが分かりました。

刃物の包丁は事件前に購入しており、警視庁代々木署は計画的な犯行とみて詳しい経緯を調べています。

出典元:TBS NEWS 児童養護施設長死亡、元入所者の男「ネットカフェを転々と」

施設の防犯カメラなどを調べた結果、田原容疑者は25日午後1時45分ごろ、施設の玄関から侵入、その5分後、玄関近くの施設長室で職員が包丁で刺された状態の大森さんを発見し、110番通報しました。

捜査関係者によると、田原容疑者が子供たちの生活する2、3階に立ち入った形跡はなく、最初から施設長室を狙って襲撃した可能性があるとみています。

田原容疑者は包丁について「事件の2、3週間前に100円ショップで購入した」と供述しています。

発見時、包丁は大森さんの体に刺さり、柄の部分が折れた状態でした。

大森さんは右胸のほか、首や脇腹にも刺し傷があり、田原容疑者は「(大森さんに)声をかけられたが、黙って刺し続けた」とも供述しています。

同署は、田原容疑者は確定的な殺意を持ち、強い力で何度も刺したとみて詳しい動機を調べています。

施設長室で大森さんを襲った田原容疑者が部屋から出ないよう、椅子を持って構えていた男性職員も顔を殴られ、軽いけがをしていたことも分かりました。

 

児童養護施設の出身者の支援とともにネットカフェ難民のケアも必要

今回の事件、田原容疑者の生活環境などが少しずつ明らかになってきました。

田原容疑者は、児童養護施設「若草寮」出身者であるということ、そして、アパート家賃滞納から退去させられ、定住する住居はなく、ネットカフェを転々としていたということです。

児童養護施設出身者、ネットカフェ生活者、ネットカフェ難民が悪い、というわけではありませんが、イメージが良いとは言えないのが実情です。

生活困窮者の個別的な状況に対応できていない社会にも責任があるのかもしれませんが、それよりも、何か問題を抱えている人ではないかという先入観が働いてしまうことも、残念ながら無いとは言えません。

東京都によれば、児童養護施設の退所者に対する調査で、退所後に困ったことの上位3位は、「孤独感、孤立感」「金銭管理」「生活費」となっていますが、田原容疑者はそのひとりだったと思われます。

同じく、「施設退所(措置解除)に際して支えになっていた人」「施設退所(措置解除)直後、困ったときの相談相手」で「大いに支えになった人」として、最も多かった回答は、「施設職員」(55.1%、43.1%)となっています。

家族など頼るものがない施設出身者の支えは、施設の職員がその役目を担っていることが分かります。

また、相談相手として「相談できる人はいない」が、 11.7%、田原容疑者もそうだったのでしょうか。

そして、 現在、生活保護を受けている人が 10.7%、また、受けたことがある人は 9.5%、施設退所(措置解除)後の生活が厳しい状況にあることも分かっています。

多くの児童養護施設は、継続して退所者への相談支援を献身的に行っているのは事実です。

しかし、施設職員の人員配置や労働環境も十分ではなく、支援現場には限界があることも確かです。

児童養護施設を退所した若者たちが生活困窮に至りやすい状況を、簡単に解決することはできません。

欧州などのように住宅手当を支給したり学費無償化にするなどできればよいのでしょうが、日本では公的支援が弱いのも現状です。

この社会構造を変えなければ苦しむ者たちはこれからも後を絶たない、そう思いはするのですが、何もできないのがもどかしいです。

一方で、ネットカフェ難民はどうでしょうか。

街中から消えたホームレスの新たな住み家になっていると言われるネットカフェですが、その実態はブラックボックスであり、政府や各自治体とも十分な調査がなされていません。

ネットカフェでは利用者に対して、防犯の観点から身元確認ができる書類の提示や利用者登録、個人情報の管理などが行われています。

しかし、これは利用者を防犯対象として行っているにすぎません。

ネットカフェで、もう一歩踏み込んで利用者の声を聴くことができれば、ネットカフェが、利用者のちょっとした集いの場になれば、とか考えたりしますが、そういうのが面倒、余計なお世話と思う人もいるでしょうね。

ただ、本当に苦しい人には誰かが声をかけなければ、その人は本当にダメになってしまう、それが今回の事件かもしれません。

ネットカフェ難民も支援対象者として見つめ、事情に応じて対応していくことが必要だと思う次第です。